悪夢から目覚めて、沙夜のおねしょ編。
朝起きた沙夜は、おねしょしてしまっていると言うことに気がつく。
濡れたスパッツ、そしてジットリとお尻にまとわりついてくるしましまのローライズショーツ。
替えのショーツを探すも洗濯をサボっていたから、いま穿いているのがラスト。
しかたがないので、沙夜はおねしょショーツにドライヤーをかけることにする。
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「俺はこんな死に方……嫌だ……! ハッ!?」
沙夜が飛び起きると、そこはいつもの見慣れた光景……沙夜の部屋にあるベッドだった。
窓からは朝日が射し、遠くからは小鳥のさえずり声が聞こえてくる。
そこは沙夜が通っている学園の女子寮だった。
生徒一人に一部屋が与えられるので、今の悲鳴を聞かれることがなかったことが、せめてもの救いだろうか。
「……夢、だったのか……」
ホッと胸を撫で下ろすと、しかし沙夜の身体は寝汗でグッショリ濡れていた。
あんな悪夢を見たのだ。無理もないだろう。
退魔師として魔物を戦っているから、あのような最後を迎えてしまうかもしれないという覚悟を決めているものの、たまに悪夢となって襲いかかってくることがある。
洗いざらしの白いTシャツが肌に貼りついてきて気持ち悪い。
夜はノーブラで寝ることにしているから、胸の谷間にTシャツの生地が巻き込まれてしまっていた。
「……着替えるか……」
呟き、タオルケットを蹴飛ばそうとしたそのとき。
不意に沙夜は腰のあたりに違和感を覚えてしまう。
「こ、この感触はまさか……」
ジットォ……。
おまたとお尻に、ショーツがペッタリと貼りついてくるこの感触は。
沙夜は、寝るときは三分丈のスパッツを穿いているから、不快感が更に増していた。
恐る恐る、タオルケットを横に払うと、そこには。
「ああ、俺としたことが……」
本来ならば真っ白のシーツがあるはずだが……。
そこには、沙夜のお尻を中心として、大きな世界地図が描かれていたのだ。
「この年になっておねしょするだなんて……」
沙夜はベッドの上で涙目になってしまう。
怖い夢を見たときに、たまにしてしまうことがあるのだ。
三分丈のスパッツとショーツが冷え切って、お尻と太股に張りついてきて気持ち悪い。
それはおねしょをしてしまった沙夜のことを責め立ててきているようでもあった。
しかもツーンとしたアンモニア臭が立ち昇ってきている。漏らしてから時間が経っているから、その臭いは濃縮されている。
ジットリと湿って気持ち悪いショーツに顔をしかめながらも、ベッドから降りた。
重たい身体を引きずりながらも、タンスの一番上の段を開ける。
下着はいつもここにクシュクシュに丸めて畳んで入れてある……が。
「……ない」
寝ぼけ眼をこすって確認。
しかしどんなに目をこすっても、そこにあるはずのショーツは一枚もなかった。
「そういえば……、いま穿いてるので最後だったような気が……」
沙夜は基本的には男勝りでズボラなほうなので、洗濯はいつもギリギリまで粘ってしまうことが多かった。
それに昨日はマラソンだったから、夕飯を食べたら疲れて眠たくなって、そのままベッドにダイブしてしまったし。
「洗濯かご、見てみるか」
脱衣所にいって、洗濯かごをひっくり返してみる。
昨日穿いたショーツは、ジットリと汗に湿って冷たくなっていた。マラソンでいっぱい汗をかいたのだ。
鼻を近づけてみると、ツーンとした熟成された刺激的な匂いがした。
「こいつは止めておいたほうが良さそうだな……」
おとといのショーツは……、怖いから確認しないほうが良さそうだ。うん。
今日下校してきたら、しっかりと洗濯しておかなければ。
「……しょうがない、か……」
沙夜はショーツをスパッツごと降ろしていく。
おねしょに濡れたスパッツは太股に貼りついて脱げにくくなっていた。
それでも沙夜は、黒い生地を丸めながら脱いでいく。
「朝からこんなことしなければいけないなんて……うう、惨めすぎる……」
こうしてなんとかショーツとスパッツを脱ぐと、露わになったのは陰毛の一本も生えていないパイパンだった。
年相応に恥丘はふっくらと膨らんでいるけど、沙夜のその部分には産毛さえも生えていなかった。
「……今日も生えてない……」
沙夜は切なげに呟いてしまう。
つるつるのパイパンなのは、沙夜のコンプレックスの一つでもあった。
ただでさえ子供っぽい『おまた』だというのに、おしっこ臭いだなんて。
沙夜は洗いざらしたTシャツをミニスカートのようにして、自らのコンプレックスを隠す。
そして洗面台においてあるドライヤーを手に取ると、おねしょしてしまったショーツを乾かしはじめた。
昨日のショーツを穿くくらいなら、いま穿いているショーツを乾かして穿いたほうがマシだと考えたのだ。
……ちょっと、というか、かなりレモン色に染まっていて、アンモニア臭がするけど……、このさい贅沢はいってられない。
さすがにノーパンで登校するのはマズすぎる。
(ショーツ、買い足しておくかな……)
ドライヤーでおねしょショーツを乾かしながら、そんなことを考える。
今日のところは緊急的にこうしているけど、こんな状況を繰り返すのは、人として、そして年頃の女として自分でもどうかと思うし。
確か購買部でショーツも売っていたはずだ。
さすがは全寮制の女子校。
しかしその購買部が開くのも授業が始まってからだ。
なので今日のところはこのショーツで凌ぐしかない。
「このくらい乾かしたら大丈夫そう……かな?」
ドライヤーでほかほかになったショーツを握りしめてみる。
ちょっと生乾きのような気もするけど……、これくらい乾かせば大丈夫だろう。
「匂いはどうにもならないから、できるだけ人に近づかれないようにしないと、な」
匂いのほうはどうにもならなかった。
乾かすとアンモニア臭が圧縮されたのか、ツーンとした刺激臭が強くなったようにも思える。
だけど今は贅沢は言ってられない。
「ううっ、ちょっと気持ち悪いけど……」
レモン色に染まったローライズのしましまショーツに、恐る恐る足を通していく。
生乾きのショーツがお尻にまとわりついてきて、大事な部分に食い込んできた。
思わず沙夜はへっぴり腰になってしまうけど、慌てて背筋を伸ばした。
沙夜の穿いているスカートは、動きやすいようにと短く切ってあるのだ。
お尻を突きだしていたら、この恥ずかしいショーツがみえてしまうことだろう。
「いける、これくらいなら平気なんだ……っ」
自らに言い聞かせるように、何度も呟く。
ショーツはちょっと気持ち悪いけど、この上から制服を着れば、バレることはない……と、思いたかった。
沙夜は気を取り直すと、部屋に戻って制服に着替えていくことにする。
洗いざらしのTシャツを万歳しながら脱ぐと、大きく膨らんだEカップがたわわに揺れる。
その頂は、キイチゴのように赤く色づいている。
沙夜は寝るときはノーブラで寝ることにしていた。
あの絞めつけられる感覚が、どうしても好きになれなかったのだ。
背中に手を回し、髪を巻き込まないように下着を充て、そのうえから制服を着ていく。
ブラウスにスカート、そして黒ソックスにブレザー。
それから黒髪を白絹の切れ端で無造作にボニーテールに結い上げれば、いつもの沙夜の完成となる。
顔を洗うまでに、大体五分あれば身支度できる。
……女としてどうかと思うけど。
「よし、大丈夫そうだな」
くるりとその場で一回転して、スカートを回してみる。
「これでまさか俺がおねしょショーツを穿いているとは誰も思うまい……」
沙夜は革製の四角い鞄を持つと、部屋を出るのだった。
☆
私立星神学園(ほしがみがくえん)。
それが沙夜の通っている学園の名前だった。
全寮制の女子校で、ここに通っているあいだは勉学は当然のこと、淑女としての立ち振る舞いを叩き込まれる。
校舎は山奥に建てられ、その敷地面積は東京ドーム何個分だったか……、校長の話を真面目に聞いていなかったので、既に沙夜は忘れてしまっている。
ただ、やたら広いのだけは確かだ。
女子寮は、ヨーロッパのほうからの屋敷を移築してきて水回りを改装したのだとか言っていた。
女子寮を出て振り返ると、ファンタジー映画に出てきそうな瀟洒な外観をしている。
寮から学校までは、同じ敷地内にあるというのに、歩いて三十分ほどの距離にある。
あんまり近すぎても生徒たちが運動不足になるからと、あえてこの距離に寮を建てたらしい。
きっとそんなことを考えた奴の性格は、ひねくれているに違いないと思いながらも、沙夜は毎朝この通学路を歩いていた。
季節はゴールデンウィークを過ぎた頃。
だんだんと日差しが強くなってきて、歩いているだけでも汗ばんできてしまうほどの陽気だった。
レンガを敷き詰められた通学路には、両脇に植えられている灌木の影が色濃く落ちている。
その木々の足元には、スミレが紫色の花びらを揺らしていた。
「やれやれ、今日も暑くなりそうだな……」
額に汗をかくのはいいけど、尻に汗をかくとパンツが湿って気持ち悪くなりそうだ。
そんなことを考えながら歩いていると、
「あ、おはよう。お姉ちゃん」
挨拶してくれたのは、花壇に水をやっている少女だった。
「おはよう、萌。今日も精が出てるな」
「うん。一生懸命お世話をしてあげると、それだけ綺麗なお花を咲かせてくれるような気がして」
「萌は花が好きだよなー。俺は花よりも――」
「食べられるものを植えたほうがいいんだよね、お姉ちゃんは」
「そうそう、そのほうが腹が膨らむしな」
萌と呼ばれた少女はそう言うと、朝日よりも眩しい笑みを浮かべてみせた。
この少女の名前を、
大地萌(だいちもえ)
という。
沙夜のことを『お姉ちゃん』と呼んで慕ってくれているけど、クラスメートだったりする。
亜麻色の髪の毛を肩くらいで切り揃えてセミロングにしている小柄な少女だ。
男勝りな沙夜とは水と油のようにも思えるけど、萌はいつも沙夜にくっついてくる。
「ちょっと待ってて。いまお花に水やりが終わるところだから」
「そんなに焦らなくてもいいぞー。俺もちょっと休憩したいと思ってたから」
「今日は暑くなりそう……」
「ああ」
そんな世間話をしながらも、萌はジョウロにある水を手際よく撒いていく。あの水を浴びることができたら、どんなに気持ちいいことだろうか?
ぼんやりと萌のことを眺めていると、やがて水やりは終わったらしい。
「よし、これでお終い、と。さて、お姉ちゃんと登校♪」
萌は嬉しそうに沙夜へと駆け寄ってきて、なんの躊躇いもなく腕を組んできた。
沙夜の女の膨らみと比べると、かなり控えめな膨らみを感じる。
腕を組んできた萌は鼻を近づけてくると、
「くんくん……」
小さな鼻をならしてみせる。
それはよく懐いた猫が、飼い主の匂いを確かめるかのように。
いつも萌はこうやって甘えてくるけど、しかし今朝の沙夜には匂いを嗅がれてはいけない理由があった。
なにしろ、おねしょをしてしまったのだ。
(ヤバッ。匂いでバレる……!)
まさかおねしょをして、そのショーツを穿いているだなんて勘づかれるわけにはいかなかった。
「や、やめろよ。変な匂いするだろ」
「そんなことないもん。お姉ちゃん、とってもいい匂い」
萌は蕩けそうな笑みを浮かべてみせると、ギュッと、更に身体を寄せてきた。
(ううっ、俺にはこの笑顔を振り払うことはできない……っ)
男勝りの沙夜だが、いつもこんな調子で萌には逆らうことができないのであった。
☆
長い通学路を見上げると、抜けるような青空に、真っ白な時計台がそびえ立っている。
その時計台を中心として、星神学園の校舎は建てられていた。
初夏の日差しを受けて、校舎は純白に輝いているようでもあった。
「やれやれ、やっと着いたな……」
嫌がらせのように長い通学路を歩ききり、やっとのことで三階にある教室へと辿り着く。
既にほとんどの生徒が登校していて、朝のショートホームルーム前の教室は女子たちの会話で賑わっている。
その窓際の席では、一人の少女が文庫本に視線を落としていた。
日下愛美(くさかまなみ)
黒髪を三つ編みお下げにして、いかにも文学少女といった感じの少女だ。
「よ、おはよ。愛美、今日も読書か?」
沙夜が声をかけると、愛美はややジト目で見上げてくる。
愛美はあまり目がよくないのだ。
三秒ほどして目の焦点が合ったのか、
「沙夜さん。おはようございます。萌ちゃんも、おはよ」
「おはよ、愛美ちゃん。今日も難しそうな本を読んでるの?」
萌が興味深そうに本の表紙を覗き込む。
その表紙には、『アルジャーノンに花束を』と、書かれていた。
「そんなに難しくないよ? 昨日から読み始めて、楽しかったからついつい徹夜で読んじゃったくらいなんだから。それで今は読み返してるところ」
「お、おう……」
沙夜は思わず頬を引き攣らせてしまう。
沙夜も本は読むことには読むけど、そのほとんどが少年漫画だったりする。
しかも読み返したりなんかしない。
「まあ、あんまり本ばっかり読んでると玉無しになるからな! 目だって悪くなるし」
「玉無しって……沙夜さんたら、朝からエッチなんだから」
「お姉ちゃん、私たちには元々ついてないよ……」
男勝りの沙夜にしてみれば当然のことであっても、二人にはちょっと刺激が強すぎたらしい。
萌と愛美は頬を赤らめてしまう。
そうこうしているうちにチャイムが鳴り……いつも通りの日常が始まるのだった。
退魔師沙夜3につづく
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退魔師・沙夜2【悪夢から目覚めて】
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