おっきいミミズさんの登場。
恐怖失禁の巻。
恐怖は、比奈を少女であることを忘れさせた。脚を閉じることも忘れ、その真ん中からショーツが見えるのも構わずに脚に力を入れて後退しようとしている。
なんと言うことは無い、少女が懸命に開けようとしていた扉は引けば簡単に開くものだったのだ。それさえも考える余裕も無いほど少女は恐怖に支配されていた。
脚をM字に開いて恐怖に震えている少女はある意味扇情的なものがあった。恐怖のあまり小さな歯をカチカチと鳴らし、ぐっしょりと濡れているショーツ……それでもミミズから目を離せずに、脚だけを動かして逃げようとしている。
ミミズはゆっくりと比奈の上履きの臭いを確認するように近づくと、ゆっくりとふくらはぎへと忍び寄ってきた。凍てつくような冷たく、ジェルのように滑らかな感触だった。
「い、いやっ!」
そんな嘆願をミミズが聞くはずも無い。粘着質な身体を這わせ、ふくらはぎ、ひざ、そして太ももにまで達する。
「いやあ…………」
比奈は恐怖のあまりついには泣き出してしまった。それは心が折れた瞬間だったのかもしれない。もう、助からない。
じわり、とお尻が温かくなった。
もわっ……
堪えていた決壊が破れ、つんとアンモニア臭が漂いはじめる。ついに比奈は失禁をはじめたのだ。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」
しょおおぉぉぉぉぉぉ…………
「い、いや……うそ、わたし………」
ショーツから滲み出し続ける失禁は、薄暗くても黄色いことがはっきりと分かるほど色がついていた。我慢の限界を超えていたために勢いは無かったが、とめどなく放尿は続く。
お尻を中心として湖を作り上げ、上履きにまで届いてしまう。
ヒクン、ヒクンッ……懸命に止めようとしているのか、クロッチに透けて縦筋が痙攣している。
体温で暖められていたおしっこは、冷気に晒されると壮大に湯気を上げた。お湯のような湖からアンモニア臭のきつい湯気が立ち昇った。
比奈は自分で作り上げた湖の中で、いまだに恐怖から逃れようともがくより他なかった。
ピチャン、ピチャン……。
脚を動かしてもおもらしに波紋ができるだけ。そのことにさえ聡明な少女は気付くことができない。
今にも途切れそうになる意識。それを繋ぎとめながらも比奈はどうにかして逃げようとする。
そのとき、ミミズが立ち昇っている湯気に反応した。太ももからずり落ちると、湖の中へと身体を浸す。
次の瞬間、自分の股の間でミミズが取ったこと見て、あまりのおぞましさに全身があぶく立つのを感じた。
ズッ、ズズズッ
信じられないことに、ミミズはおしっこをすすりだしたのだ。
あまりの現実離れした光景に比奈は再び気を失いそうになる。
だけどこれはチャンスだった。
この隙に逃げれるかもしれない。
比奈の瞳に、微かに知性の光が戻った。その先に捉えられた、曇りガラスの窓。あそこまで辿り着けたら――。
お尻を少しずつずらして、食事に夢中のミミズを迂回しながら距離を取る。ゆっくりと、ゆっくりと……気取られないように……。
不甲斐なくも抜けてしまった腰には力が入らなくて、こんなだらしない動きしかできない。それでも何とかミミズの背後に回ると、今度は窓に向かって進まなければならなかった。
赤ちゃんがハイハイするように腕をついて進む。震える腕の力が抜けてしまい、トイレの床にできた水溜りに倒れこんでしまう。
ブレザーに悪臭がきつい水が染み込んでいくと、惨めな気分で一杯になった。ブレザーにだけではなく身体にまで染み込んでいくかのようだった。
なんとか窓際まで到達する。今度は鍵を開けなければならない……。鍵を開ければこの異様な空間から逃げられる……手を伸ばし、鍵を開けようとする……そんなときだった。
ぬる
足首に、何かが絡み付いてきた。凍てつくようなこの感じ。
比奈の心に、微かに芽生えた希望は哀れにもあっけなく摘み取られてしまった。
ものすごい力で足を引っ張られ、景色が流れていく。苦労して這いずってきた道は、一瞬にして水の泡になってしまった。
……絶、望……。
脳裏に、そんな言葉が思い浮かんだ。
寄生蟲5に続く……。
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